(Photo from Hustlers Movie official site)
仕事帰り、映画「ハスラーズ」の鑑賞にTOHOシネマズ六本木へ。20年来のジェニファー・ロペス ファンである私にとって、彼女がダンサー役を演じる作品というだけでも感慨深いものがあった。「ハスラーズ」はリーマン・ショック後のニューヨークを描いている。私のなかで「リーマン・ショックといえば六本木」だったので、このシアターを選んでみた。遠く離れたアメリカの金融危機の衝撃を日本も当然受けたわけだが、外資系金融企業が集中していた六本木は特に影響が大きかった記憶がある。当時転職活動中だった私は「人生どうなっちゃうんだろうなぁ」と六本木ヒルズ横で東京タワーを眺めながらぼんやりしていた想い出があった。あれからもう12年も経つのか。
あらすじ、けっして「キラキラ女性ムービー」ではない
ハスラーズは、2008年の世界金融危機(日本ではリーマン・ショックと呼ばれることが多い)後のニューヨークで起きた実際の事件に基づいている。ストリップクラブで働くダンサーが中心となり、大不況のなかも変わらずリッチなウォール街の男たちから大金を巻き上げていた事件だ。
2008年に起きた米リーマン・ブラザーズの経営破綻が引き金となった世界的金融危機。それ以前のウォール街の景気はバブルそのもので、ストリップクラブもめちゃくちゃ活気があった。アジア系のデスティニー(コンスタンス・ウー)は祖母を養うためにクラブで働き始めたばかりの新人ダンサー。そこで伝説的なダンサー、ラモーナ(ジェニファー・ロペス)に出会う。ラモーナの魅力とカリスマ性に圧倒されたデスティニーは、ラモーナにレクチャーをお願いし、やがてふたりはペアを組み荒稼ぎするようになる。ラモーナ曰く客にはランクがあり、下っ端は不正をしないから稼ぎが悪いがたまにクラブにお金を落としてくれる。最上位客は企業のCEOやCFO。不正を厭わず莫大な利益を上げている者たちで、マスコミなどに顔が割れないよう店の裏口の専用エレベーターで入店してくる、のだそうだ。
客をランク分けすることができたクラブも、金融危機後は閑散とし、ダンサーの労働環境も悪化。そんな状況でラモーナは客のドリンクに薬物を混ぜて酩酊状態にさせクレジットカードを上限まできるという犯行に出るのだった。
「持つ者」と「持たざる者」
そういえば、幼少期からアメリカで育った知人が「アメリカは生活にお金がかかるからさ、稼ぐしかないんだよね」と言っていたのを思い出す。高額な保険料や家賃を支払いながら良い暮らしを、と考えるとかなり稼ぐ必要があると彼女は言った。数年前に聞いた時は「へー、そうなんだ」とどこか他人事のように感じていた。
去年、タイの友人(富裕層)が豪華な結婚式を挙げ、バンコクの高級ホテルを予約してくれた。豪華なホテルの高層階でのステイは初めてでテンションも上がり、部屋から広がる美しい景色を嬉々としてムービーに撮りまくっていた。そんな時ふと下に目をやると、ホテル横の狭い敷地にぼろぼろのトタン屋根の住宅が密集しているのが目に飛び込んできた。外を歩いていたときには気がつかなかったので、とても驚いた。
急速に世界中に広がる格差。抜け出す事が困難なほどに大きくなっていると実感することが増えてきたように思う。私自身普通のOLだが、日本でも生活苦を感じる事がある。給与は上がらないけれど、支払いは増えているような気がする(気のせいではないはず、、)。格差に関して「明日は我が身」と恐怖心を持つ人は、私のような会社員にも多いと思う。
最近の映画は、この格差社会の「持つ者」と「持たざる者」にフォーカスした良作が多い。米「ジョーカー」や韓国の「パラサイト」など。この「ハスラーズ」も格差を描いた良作だ。ハスラーズはストリッパーたちのキャラクター描写が丁寧で、なんとなく彼女たちに感情移入してしまう(彼女たちのやった事は全然許されるレベルじゃないんだけど。。。)。本作には印象的なセリフが多く、「大金をだまし取ったウォール街の男たちは誰一人罰せられてないのに、何がいけないの?」と言ったようなセリフが並ぶ。
ジェニファー・ロペスのポールダンス
冒頭、J.Loのポールダンスを観ることができるのだが、そのステージングは圧巻。2020年のスーパーボウル・ハーフタイムショーでも話題になったが、50歳であることが信じられないほどの美貌とダンスを披露してくれた。実際彼女はこの映画のために6ヶ月間ポールダンスのトレーニングに励み、振付師ジョバンナ・サパーキにレクチャーを受けた。ジョバンナは長年シルク・ド・ソレイユにいたプロフェッショナルで、ラスベガスで仕事をしていることもあり、ストリッパーにも精通していたそうだ。
J.Loのポールダンスの練習
女性が作り上げた、女性のための作品
この映画は監督、脚本、プロデューサーなど主要部分を女性が担った、まだまだ珍しい作品。女性ならではの視点で、細かく描けていると思う。
主要登場人物のラモーナとデスティニーには、シングルマザーという共通点がある。ラモーナの台詞に”Motherhood is a mental illness!(全ての母親はいかれてるのよ!)”という発言があるが、全編通して家族を守ろうとする愛情が表現されている。強い台詞が多いなかで一番記憶に残ったのはこれだった。「持たざる者」として必死に生きる二人の母親は、子供のためになんでもする。デスティニーの「自立して、子供を自分で育てたい」という強い意志に共感する女性は多いはず。
ナタリーポートマンは女性監督の名前を刺繍したジャケットを着用してアカデミー賞授賞式へ。ハスラーズ監督スカファリアの名前もここに並んでいる。
映画の元になった事件
この映画は、ジェシカ・プレスラーの記事 “The Hustlers at Scores” に着想を得ているそうだ。映画を観て興味を持ったかたにはこちらの記事もおすすめ。ラモーナのモデルとなったSamantha Barbashに関しての詳細もここで読むことができる。
ヒットする女性向け映画は、どうしてもキラキラした作品が多い印象がある。そこに描かれるキャリアアップや恋愛に対する葛藤は、ある意味幸せなのかもしれない。その競争にも到達できない者たちがもがき続ける「ハスラーズ」に、私は深く心動かされたのだった。
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