2024年6月20日(木)、大阪・フェスティバルホールにて、読売交響楽団・第38回大阪定期公演が行われた。指揮はセバスティアン・ヴァイグレ、ピアノは角野隼斗、フランチェスコ・トリスターノ(Francesco Tristano)という豪華すぎるラインナップ。東京公演は、6月22日(土)と23日(日)に東京芸術劇場にて開催。
テクノ好きの筆者は、電子音楽とクラシックを見事に融合させるピアニスト、フランチェスコ・トリスターノの大ファン。今回は、満席の大阪公演のレポートを、まずは彼のアーティストとしての功績から紹介していきたい。
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テクノとクラシックを融合させる気鋭のピアニスト、フランチェスコ・トリスターノ
フランチェスコ・トリスターノ(1981年〜)はルクセンブルク出身のピアニスト。ルクセンブルク音楽院、王立ブリュッセル音楽院など、欧州各地で研鑽を積んだ後、活動の拠点をニューヨークに移しジュリアード音楽院に進学。ニューヨークのクラブでテクノと出会う。その後はクラシック・ピアニストとして大きく活躍すると同時に、シンセサイザーを駆使したライブパフォーマンスでも観客を魅了している。
数々の電子音楽家ともリミックスやライブでコラボしており、デトロイト・テクノのDJプロデューサーであるカール・クレイグとは世界各地で共演した。筆者は、2人が共にパフォーマンスする動画を視聴したことがきっかけで、フランチェスコ・トリスターノを知った。おそらくこの機会に彼を知ったテクノ愛聴者は多いように思う。
■ Francesco Tristao Feat. Derrick May – The Mentor(Snippet) on SOUNDCLOUD
世界のトップDJや電子音楽のアーティストがライブを行う「ボイラールーム(Boiler Room)」での過去のパフォーマンスも必見。音楽理論や文化的背景、ピアノやシンセサイザーの構造を熟知したものしかできない、素晴らしい演奏だった。電子音楽好きだけでなく、クラシック好きも楽しめる、まさにジャンルを横断するライブだ。
Francesco Tristano Boiler Room & Ballantine’s Stay True Germany Live Set
※YouTubeページが開きます。
本公演の演奏楽曲について
続いて今回の公演のレポートを。曲目は以下の通り。
■前半
・ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死
・ブライス・デスナー:2台のピアノのための協奏曲(日本初演)
・(アンコール)リチャード・ロドニー・ベネット:「4つの小組曲」から第4曲「フィナーレ」
■後半
・ウェーバー:歌劇「オイリアンテ」序曲
・ヒンデミット:ウェーバーの主題による交響的変容
有名楽曲が並ぶなか、ブライス・デスナー「2台のピアノのための協奏曲」という聞き慣れない題名が。この楽曲を角野隼斗とフランチェスコ・トリスターノが演奏。まずはこの曲のコンポーザーであるブライス・デスナーを紹介したい。
ブライス・デスナーとは?
ブライス・デスナー(Bryce Dessner)は、アメリカのインディーズ・ロックバンド、ザ・ナショナル(The National)のリードギタリストで、現代音楽の作曲家としても活躍している。映画音楽でも功績を上げており、レオナルド・ディカプリオ主演の「レヴェナント(The Revenant)」やホアキン・フェニックス主演の「カモン・カモン(C’mon C’mon)」でも作曲を担当している。
参照:Bryce Dessner Webサイト
「2台のピアノのための協奏曲」について
幅広いシーンで活躍するデスナーの「2台のピアノのための協奏曲」は、ジャンルを定めにくい楽曲かもしれない。ミニマル・ミュージックとも言える。複雑な旋律を2台のピアノが重ね続けるなか、バックのオーケストラが奥行きを出して空間を演出するためか、SF映画「インターステラー」を彷彿とさせる。また、ループテクニックやキレのあるブレイクを挟むなど、テクノ的要素もある、不思議な楽曲だ。
フランチェスコ・トリスターノが演奏前のトークで、フランスの詩人・ボードレールになぞらえ「美は常に奇妙なもの」と表現したが、その言葉がしっくりきた。きらきらする水面のような細やかなピアノの旋律に気を取られていると、ハッと現実に戻されるような激しいパーカッションが鳴り響く。今まで聴いたことがないような、トリッキーな展開。
さまざまなジャンル跨いで演奏してきた2人のピアニストにしか表現できなかった音楽と言えるだろう。楽曲を憑依させて演奏する姿に、満席の観客は見入っていた。角野隼斗、フランチェス・コトリスターノの共演は、想像を超える素晴らしさがあった。
前半・後半で全く違うクラシックを体感できるコンサート
コンサートは、楽劇「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死、から始まった。2曲目が角野隼斗とフランチェスコ・トリスターノによる、ブライス・デスナー「2台のピアノのための協奏曲」。直後にアンコールとしてリチャード・ロドニー・ベネットの「4つの小組曲」から第4曲「フィナーレ」。ジャジーで迫力ある演奏に会場全体が沸いた。
休憩を挟んで後半は、「ウェーバー:歌劇「オイリアンテ」序曲」と「ヒンデミット:ウェーバーの主題による交響的変容」。ロマンチックなクラシックを堪能することができた。
「トリスタンとイゾルデ」は、人気の高いSF映画作品のBGMに起用されたこともある。また、「2台のピアノのための協奏曲」は現代音楽や電子音楽の要素が散りばめられた作品であったことから、前半は宇宙やダンスミュージックを感じる独特の雰囲気に包まれた。
まとめ
全く違う雰囲気の楽曲で前半と後半が構成されるコンサートは、聴いている側も楽しく、あっという間に時間が過ぎた。また、初めてフェスティバルホールを訪れたが、音響も客席の居心地もよく、リラックスできる環境だと感じた。
2台のピアノのための協奏曲とアンコールがダンスミュージックさながらで、休憩時間は久しぶりにホワイエで白ワインをいただく。
公演終了は21時ごろ。オフィスも多く、北新地も近いという土佐堀川周辺を、夜風を浴びながら少しだけ散歩。良い夜となった。すっかりフェスティバルホール自体も気に入ってしまったため、定期的に訪れることとなるだろう。
※この記事は2024年6月に公開された記事です。最新の情報ではない可能性があります。
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