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Netflix「マリッジ・ストーリー」レビュー、ふたりが選ぶ人生の歌

いま現在、私の周囲で離婚手続きを進めている夫婦が2組いる。そのうちひと組は、どこに行くにも一緒の仲睦まじい夫婦だったので、知らせを聞いた時は驚いた。夫が仕事で異動となり地方勤務に、一方妻にも捨てられないキャリアがあり、離ればなれの生活が数年続いた。そのうち心の距離も広がり、、ということらしい。

 

今や日本でも3組に1組の夫婦が離婚する時代、私の知人にも離婚経験者が少なくないし、その理由も様々だ。子育てに専念していた主婦が起業後に事業が大きくなるにつれ夫婦関係がこじれてしまったとか、どちらかの浮気が原因でスピード離婚、ということも。「こういう理由で離婚になったんだ」「離婚ほどネガティブなパワーを使うことはない。生きた心地がしなかったよ」そんな話をじっくり聞いても、体験したことがない者にはやはり理解しきれない部分もある。

『マリッジ・ストーリー』はある夫婦が離婚に至るまでの過程をリアルに描いており、観る側も感情が揺さぶられるし、なかなか体力を使う映画だった。ジャンルは一応、コメディに入るらしいけど(笑)IMDbのレートも8.2点(2019年12月31日現在)と大変評価が高い作品だが、私にとっても今年最も心動かされた作品のひとつとなったのでお勧めしたい。

 

マリッジ・ストーリーあらすじ

 

舞台監督の夫チャーリー(アダム・ドライバー)と妻で女優のニコール(スカーレット・ヨハンソン)は性格が正反対の夫婦。ふたりはニューヨークにある劇団で活動を共にしており、公私ともにパートナーだった。夫婦には1人息子がいる。結婚生活の不和もあり円満離婚を望んでいたのだが、事態は思わぬ方向へ、、、。

<以下、ややネタバレしています>

 

不和の原因は、シンプルなものではない

当初円満離婚を望んでいたふたりだったが、あるきっかけでニコールは弁護士の元を訪れる。自分は夫に尽くしてきたこと、ある決定的な出来事があったことを弁護士に伝える。一方チャーリーは、ニコールの弁護士から突然突きつけられた要求に驚く。しかし相手が弁護士を立てた今、同じように自身も依頼するほかなく、事態はどんどん泥沼化していく。

マリッジ・ストーリーは弁護士を含むそれぞれの登場人物の目線からみると、全く別のものに見えてくる。お互いに残った愛情や子供の親権を得たい強い感情が入り交じる夫婦と、裁判上の勝ち点・妥協点を冷静に狙いに行く弁護士。法廷では重箱の隅をつつくような見苦しい攻防が続く。婚姻が継続できる状態の夫婦なら見逃すような小さなポイントも、口撃対象となるのだ。

私はローラ・ダーン演じる弁護士が「女性側には完璧な母性を求められる」といった世相を力説するシーンが印象に残った。裁判は綺麗事ではまかり通らないが、それは法廷のなかだけのことではない。

 

結婚の幸せとは?

結局夫婦は他人同士が一緒になるわけで、性格も違えば100%相手を理解することは難しい。それぞれの仕事や家族、その時々の健康・精神状態によっても無限に選択肢が存在し、「これがベスト」なんて正解は用意されていない。マリッジ・ストーリーはその正解のない人生の選択のひとつを、視聴者自身の目を通して体験するような作品だった。チャーリーが床屋に行くシーンがとても切なかった。

 

チャーリーとニコールが選ぶ、それぞれの歌

本作ではニコールとチャーリーがそれぞれ歌うシーンがある。共にミュージカル”Company”からの楽曲だが、対照的な曲調と歌詞だ。チャーリーが歌う”Being Alive”は物哀しく、彼の孤独を表現している。

ニコールとその家族が歌う”You Could Drive A Person Crazy”は、とてもポジティブな印象で面白かった。それぞれの曲が、気持ちを表現しているようだ。

ミュージカル”Company”のサウンドトラック on Spotify

 

アダム・ドライバー、スカーレット・ヨハンソンの演技が素晴らしい!

最近「スター・ウォーズ〜スカイウォーカーの夜明け〜」を鑑賞した。アダム・ドライバーの演技力が凄まじく、彼がすべてを持っていったように感じた作品だった。スカーレット・ヨハンソンはブラック・ウィドウなど麗しい美女役が多い。こんなにオーラのあるふたりの俳優が、やや疲れた普通の夫婦を演じ切れてしまう振り幅に驚く。
特に、夫婦喧嘩がヒートアップしていくシーン。相手の嫌いになれない部分と親権を巡って主張しなければならない複雑な感情の動きを見事に演じ切ったふたりの演技は圧巻。10分ほどのシーンはどうやら一発撮りらしく、ここも大変見応えがある。

 

マリッジストーリーを観終えたあとの感情は、「La La Land」鑑賞後に似ていたかもしれない。ロケーションがL.Aということもあるのだろうか。全体的にネガティブなストーリーではあるけれど、不思議と「家族としっかり向き合おう」とか「相手の話を聞いてみよう」という感情が湧く映画だとおもう。新しい年に、ぜひご鑑賞を!

 

<Source>
LA Times: The importance of Adam Driver singing ‘Being Alive’ in ‘Marriage Story’

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この記事を書いた人

音楽・楽器演奏が大好きな多趣味のライター。経験楽器はバイオリン、ピアノ、フルート、エレキベース、ハープ、DJ(CDJ/PCDJ)など。オーケストラやバンドに参加したり、BarやClubでDJしたり。
30代で海外短期留学を経て外資で勤務したことも(TOEIC820点)。現在のお仕事はIT関連です。

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