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BOOK

【レビュー】『ワイルドサイドをほっつき歩け』から学ぶ、おっさん達の生き抜く力

梅雨の晴れ間、ふらっと本屋さんへ。今年は本を買う機会が増えた気がする。新書コーナーでブレイディ・みかこ著ワイルドサイドをほっつき歩け――ハマータウンのおっさんたちが目に入り、パラパラとページをめくる。

みかこさんは英国人男性と国際結婚し現地で保育士として働く傍ら、作家としても活躍する女性。最近だとぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルーの大ヒットが記憶に新しい。

この『ワイルドサイドをほっつき歩け』は、みかこさんが友人の「おっさん(ワーキングクラスの主に60代)」たちについて綴ったエッセイだ。本の前書きが既に面白くて、速購入!

登場する「おっさん」たちは、海外のコメディ・ドラマのような憎めないキャラクターばかりでなんとも愛おしい。久しぶりに本を読んで爆笑!そしてちょっと切なくてもあり、泣ける作品でもあった。

みかこさん自身が大の音楽好きということもあり、音楽ネタが散りばめられており、UKロック好きには特にお勧めな作品だと思う。表紙のデザインもちょっとパンキッシュ。

 

 

英国に対する、わたしの複雑な感情

本のレビューの前に、個人的なことを書いてみる。わたしは英国に対して、やや複雑な感情を持っていた。

わたしの周りには、英国籍の配偶者を持つ知人がふたりいる。このふたりは対照的で、一方はアッパークラス(アッパーミドルクラスかも?)、もう一方はワーキングクラス出身者と結婚していている。

前者のパートナーは、兄弟全員が全寮制のボーディングスクールへ進学している。この夫婦からは「イギリスって最高!」というような楽しい話題が多く、生活も華やかだった。

一方後者からは、ワーキングクラス出身の夫がこれまでに経験してきた生活苦やアルコール依存症の親族など、なかなかハードな話を聞いた。耐えながら頑張ってきたんだな、と彼を尊敬したものだ。ところで英発の人気ドラマで社会現象にまでになったNetflix『セックス・エデュケーション』では、英国の貧困や家庭環境の問題を積極的に描いている。わたしはこのドラマを友人の夫の話を思い出しながら観たのだった。

 

ロンドン旅行の負の思い出

わたし自身の経験としては、数年前のロンドン旅行中にアジア人蔑視のような態度や言動を何回か受けたことがあった。海外旅行で不快な経験をあまりしたことがなく、長旅の疲れや豆腐メンタルなことも相まって、かなりのダメージ。最終日に風邪をひき、高熱をだして一日中寝込んでしまったのだった(笑)

英語が下手で相手をイラつかせてしまったのかもしれない。でも、現在でも当時の悔しくてやるせない気持ちをたまに思い出すことがある。こういう思いって時間が経っても消えないんだ….。

前出の対照的な二組の夫婦や自らの体験から、英国は置かれた者の立場や場所によって見え方が全く異なる国だなと感じていた。どの国もきっとそうなんだろうけど、自らの体験から特にそう思ってしまい、いつしか苦手意識まで湧いてしまったのだった。

 

ブレクジットが二分する社会

さて、本の話に戻る。『ワイルドサイドをほっつき歩け』のメインテーマは「おっさん」と併行して「ブレクジット(EU離脱)」だ。国内を二分するほどにインパクトが大きく、賛成派と反対派の対立もいまだ激しいようで、家庭内の溝を深めることもあるのだという。ワーキングクラスのおっさんたちは賛成派が多く、反対派が多い若年層(子供や年の離れた妻など)と揉めるのだ。

※ここからはややネタバレしている部分もあります。

違いすぎる世代間の考え

日本でもベビーブーム世代と若年層では大きく価値観が異なるけれど、英国ではその差はさらに激しいように思える。この本にも書いてあるが、英国は世代によって生きてきた状況が違いすぎるのだ。大学が学費無料の時期があり、ワーキングクラスの子供たちも大学に進学できた時代もあったり。本の第二章は各世代の特徴が詳しく書いてあり、とても勉強になった。

 

移民に対する感情

おっさん達の住むブライトンの海辺

本の中で、移民を守ろうとある行動に出るおっさんのエピソードがちょっと笑えるけれどジーンとくる(スティーヴ大好き!)。そして同時に、英国の移民に対する感情は、かなり複雑であることもわかった。著者・みかこさんのパートナーがアイルランドからの移民であることで、その辺りも細かく書かれていたが「そんなこともあるのか」と少し驚いた。

 

「ワーキングクラス=貧しい」わけではない

この本を読むまで、ワーキングクラスは貧しいという先入観があった。前出の夫婦の話を聞いていたことも関係があるかもしれない。しかし、一概にそうとも言えず、家賃収入を得て悠々自適に生活する者もいるそうだ。

 

それぞれの考えを尊重する国(いろんな意味で)

わたしはこの本を読み、今まで抱いていた英国に対する複雑な感情は、そのままにしておけばいいんだな、と思った。登場するおっさん達の考えにも一貫性があるようで無く、ブレクジットや移民、労働党、ウーバーなどに関する意見もバラバラだったりする。そして、それがなんとも人間らしい感じがするのだ。

 

戦い、受け入れ、自分らしく生きる

そんなバラバラなおっさん達に共通しているのは、自らの権利や守るべきもののために戦うけれど、本当にどうしようも無い状況になったら、それを受け入れる力があることかもしれない

わたしはひとりのおっさんが言った、この言葉が好きで共感してしまった。

「絶望とかロマンティックなことはさ、上流の奴らがすることよ」

良いことばかりではないけれど、明日はまた来る。受け入れることは諦めでもあるし、きれいごとではないけれど、生き抜く力の大切なひとつなのだ。

自由に海外旅行できる時期が来たら、久しぶりに英国に行ってみようと思う。いつの間にか苦手意識は消え、一転して好きな国になってしまった。「みんなちがって、みんないい」なんて言葉があったけれど、そんな感じかもしれない。

 

『ワイルドサイドをほっつき歩け』をUK ロックやパンクを聴きながら読んでいたら、The Clashが聴きたくなった。”I fought the law”をリピート。聴きたくなる人もいると思うので、貼っておきます。(ところでこの曲、なんで車のCMに使われてたんだろう…笑)